緋山酔恭「山水石美術館」 全国の水石・美石を紹介 瀬田川石 Ⅲ(虎石・金梨)


瀬田川の虎石



水石界においては

瀬田川石は、加茂川石、佐治川石とならび

三大銘石とされています


加茂川石はともかく

瀬田と佐治はその名にふさわしい石と言えます


とくに瀬田の石は、その種類の多さで抜きにでています


一方、佐治に比べて、数も多く(ヤフオクをみていても明らか)

わりと入手はしやすい石と言わざるを得ません



そんな瀬田川石のなかでもとりわけ名高いのが虎石です



平成28年8月8日の「天皇陛下お気持ち表明」で

日本文化の象徴として水石が飾られたことは

まことに喜ばしいことですが

そのとき石が瀬田川の虎の土坡(どは・平野や平地)石でした






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この石について調べた人によると


この石は、「第3回・日本水石名品展」(昭和38年)に

加藤三郎という方が出品しているそうです

さらに

加藤三郎氏は、大宮盆栽村の「蔓青園」3代目園主で

日本盆栽協会の理事長でもあり

皇居の盆栽が大宮盆栽村で管理されていたことから

加藤氏の瀬田川虎石が皇室に寄贈されたと考えられる

としています


また「第12回・日本水石名品展」(昭和47年)では

東宮御所の石として出品されているそうです






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東宮御所より出品されたときの写真  転写



東宮御所とは、皇太子のお住まいですので

天皇陛下は、皇太子時代より

この石を長く大事になされてきたのでありましょう




ちなみに飾り皿は、柿釉(かきゆう)と縄文象嵌(ぞうがん)の技法から

益子焼の人間国宝、故・島岡達三〔1919年(大正8年)~2007年(平成19)〕の

作品ではないかと言われています




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柿釉とは、鉄分を含み焼成すると赤茶(柿茶)色に発色する

うわぐすり(陶磁器や琺瑯の表面を覆っているガラス質の部分)


縄文象嵌とは、島岡達三氏の考案で

作品に縄目を施して色の違う土をはめ込む(象嵌する)技法だそうです




天皇陛下の声明をうけて、文化について書いてみました


竜太・酔恭のB級哲学仙境録  文化論Ⅱ 






石に話を戻しましょう

天皇家の石としては

名古屋市の徳川美術館所蔵の「夢の浮橋」が有名です


後醍醐天皇が、南北朝の戦乱のさなか

笠置、吉野に行幸(仮の御所に移ること)の際にも常に懐中にして

憂悶をなぐさめられたと伝えます


この石は、中国から伝わり、当初 足利家のものだったそうです




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さて、瀬田川の虎のよさは、凹凸ができることにありますよね


虎石は、黄色のチャート質と

黒の粘板岩質とが交互に重なり

虎柄に見える事からそのように呼ばれていて

黄色の部分の方が硬く、黒の部分の方が侵蝕に弱いので

川で磨かれると凹凸ができる と

どの本やネットで調べても説明されています




しかし、チャートは

ジャスパーほどの硬度をもちます

そもそも、チャートとは堆積岩の一種で

主成分は水晶、メノウ、ジャスパーと同様、石英です

この成分を持つ放散虫・海綿動物などの動物の殻や

骨片(微化石)が海底に堆積してできた岩石と言われています



下の写真をみてください





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どこをどうみたって

水晶やジャスパー(佐渡の赤玉など)のような質ではないですよね(笑)


古谷石が4.5、神居古潭石が5.5

翡翠やジャスパーが7~6.5なので

仮にチャートだとしたら、黄色(茶色)の部分は相当の硬さがあるはずです



チャートは、メノウとともに火打石としても利用されるほど硬く

美石としては、紅加茂石が知られています







仮に石灰岩の変質した大理石(硬度3)にしたって

美濃の更紗石のような上質なものならば

艶が出るはずなので

質の悪いものと言わざるを得ません




美濃の更紗石




瀬田川の虎とは、こうした軟らかく

欠けやすくもある石がほとんどであって

業者さんに言わせると

「瀬田の虎は軟らかく形がつくりやすい」

「水石として出回っている9割の瀬田の虎の名品は

どっかかんかいじくってある」


また色調についも

「自然に(もちこんだからといって)、このようなツヤが出るわけがなく

なにか塗っているとしか考えられない」

という話になるわけです






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こうしたルーター(ハンドグラインダー)を用いれば

先にとりつけるリューターにはダイヤモンドの粉が混ぜてあるので

翡翠すら削れます


削って、サンドペーパー(紙やすり)をかけて仕上げるわけです







そんな瀬田川の虎のなかでも

ときおり、チャートらしき硬質の石をみかけます

それがこれです


(実物と写真ではぜんぜん違うこともあるのであくまで参考です)




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以上のように、瀬田川の虎石と一口に言っても

黄色がチャートらしき硬質な石と

チャートとは到底おもえない軟質な石があって

軟質なものが圧倒的に多いということなのです







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もし茶色の部分がチャート(硬度7)なら

私が所有する下の神居古潭石(硬度5.5?)の虎より

硬くなければなりません











どうみたって

古潭のほうが硬質ですよね







この石も、私の所有する古潭の虎(7㎏)





クリックすると写真が拡大表示されます





乱れ虎・飴虎





横14×高さ(台込)30×奥11  およそ6.5㎏
















この石の縞は、乱れ虎 といって

ふつうの横縞のものによりずっと希少で

珍重されます


色も飴虎で

まったくの自然と言ってよいと思われます


軟質標準タイプの瀬田の虎としては逸品です


愛知県の菊花石・水石専門業者 天勝庵の渡辺さんからいただきました











横33×高さ21×奥14  13g弱










黒い縞の部分が、一本の黒線ではなく

黒い梨が集まってできています


これが瀬田の虎の特徴で

これによって

庄内川(岐阜県・愛知県)など

他の産地の虎石と容易に見分けられる


という人もいます


富山県の高道万石堂さんよりいただきました











横46×高さ(台込)19×奥25  およそ19㎏
























この石はわりと硬質で

質のよい虎石です


また黒の部分が多いのも素晴らしいです


底は自然のソゲ(割れた状態)で

表は、おそらく手が入っている(一部形をつくっている)はずですが

ペーパーで磨いて仕上げただけではないか

と思わせるほど

質感がいいです











横20×高さ(台込)10×奥12.5  23170g













やや右から





小ぶりですが、なかなかの名品

長崎県の水石業者 佳石庵の中路さんよりいただきました









白虎

(富士)





横16×高さ(台込)11×奥4.5  973g




雲と富士









豹 虎





横18×高さ(台込)23.5×奥6  2605g







豹虎の傑作

石も硬質で、カンカン響きます


自然で通る許容範囲ではありますが

瀬田の名品のお定まりで

どことなく手が入った感じはあります


長崎県の水石業者 佳石庵の中路さんからいただきました





なお、長野の月水苑の月水先生のブログをみると

この肌の石を「蓬石」としていて

瀬田の絶品、肌惚れする石であると語られています


一方、水石収集の大家であられる 本多忠三氏のサイトに

≪瀬田川では、この石のように変化の多い石を何故か[蓬石]と言います≫

とあり、そうなると

ヨモギ石というのは、特定の質や肌や色の石ではない

ということになりなす



また、長崎県の水石業者 佳石庵の中路さんにお聞きしたところ

わたしは

「地元では、黒から緑までの硬質の石を

ヨモギ石と呼んでいると認識している」

とのことでした










豹 虎





横18×高さ(台なし)26×奥12  7.88㎏










この石も、豹虎の傑作です

上の石より、こちらの方が

「豹虎」と呼ぶにふさわしいかもしれません


豹虎模様というだけでなく

黄色がとても綺麗で、石もわりと硬質です


完全なウブ(自然石)です



ヤフオクを通して

長野の月水苑の月水さんからいただきましたが

ヤフオクの写真は、色が悪く写っていたので

幸運にも安く入手できました


「豹月」という銘がついていました









豹 点





横19.5×高さ17.5×奥9.5  2329g
















長野の月水苑の月水さんからいただきました


月水先生の自採石のようで

お嬢さんから

父が言うには、この瀬田川豹点石は

他であまり見かけない種だということです。

100回以上瀬田川へ行っていますが

この豹点は、、、一個だけです

との説明をいただいています










玉 虎

銘 海遊



















横19.5×高さ23×奥12  およそ6㎏弱













この石も、長野の月水苑の月水さんからいただきました

ウミガメの姿石として観賞できます


「海遊」という銘が付いていました



後半の写真は、油を塗っています









黒 虎





横32×高さ10.5×奥28  およそ11㎏
































この石は、長野の月水苑の月水さんからいただきました


そのさい、月水先生より

およそこのような↓内容メールをいただきました

(石に詳しくない人が読んでもわかるように多少の手直しをしています)




現在、他から頂いている

黒トラのオファーはすべて御断りさせていただいています

なかでも瀬田川辺りで、医院をなさっているお方からは

以前から熱い打診があります


私が、以前から衆目以上に

瀬田の肌惚れの石に

熱い想いを持っていることは、あなたもご存知ですね




これまでたくさんの瀬田川石を蒐集(コレクション)し

また見聞し


水石専門誌である愛石や樹石

さらには瀬田川石図鑑も含めた

過去からの膨大なる写真集を目にしてきましたが


私が所蔵しているレベルの黒トラは

まずどこにも観ることがなく

この黒トラが、唯一無二で、如何に価値をもつかがわかってきました




ありとあらゆる

水石や鑑賞石を所蔵してきてはいますが

私のコレクションでは

シンギョクを除いて

五指に入る石であると認識しています


〔 シンギョクについては、月水先生が唯一無二の研究者です

日本真玉(エンペランダム) 参照 〕





黒トラを入手した経緯を書いておきます


一雨会(世に聞こえた水石愛好家の会の1つ)の

旧会員の牛窪氏が

新築された邸宅の正面玄関、取次の間に

お迎え石として

飾っていた70センチ級の幸太郎石がありました





その幸太郎を縁があって

私がお譲り頂いたのです



黒トラの旧所蔵者様は、岐阜の方で

京都の大観展常連の菊花石専門の旦那でした

黒トラは、80万円で手に入れたものといいます



誰が、売って欲しいと願っても

ガンとして売らなかったのですが

牛窪氏の幸太郎の名石となら

交換してもいいということで入手できた次第です




【金ダレ】(金梨地石)の名石なら、わりとどこにでもあるのですが

この黒トラに当該する瀬田の石は、見たことがないので

これを持つことの意味は、大変意義深いと思っております



たぶんあなたご自身も

この石については感じておられるものが

おありなんではないですか?






確かに、全部が真っ黒の黒トラというのは

私(緋山)自身、この石以外に目にしたことはありません

しかも、瀬田のトラの特徴である肌の凹凸までもを具えています


さらに、手の入ったものの多い瀬田のトラにあって

完全なるウブ(自然石)です





先生のブログに

普通、虎石は、チャートと粘板岩の互層になって生成されています

この黒虎石は、粘板岩とチャートに、炭化物が混入しており

そのためいずれも黒、、、、の互層となったんでしょうね~


初めてこれを拝見したおり、、、、ドキッ? とさせられた石です


寝ても覚めてもあたまから離れなかったもので。。。。やっと入手した虎です

とあります





結局、月水先生の御令嬢の澄光歌(すみか)さんに

一晩、先生を説得してもらい

ようやくこの黒トラを入手できたわけです



当然、それなりの金額はかかりましたが

お嬢さんの尽力もあり

だいぶ安く譲っていただくことができました





経済学には

「記号価値」という概念があります

これは、商品に内在する価値のうち

「その商品を持っていることが誇らしい」

「その商品を選んだ自分が誇らしい」といった価値です



ブランド(高い価値を持つことを示す商標)とか

ステータス(社会的な地位や身分の象徴・優越の象徴)

なんかの概念に関係する価値ですね


この黒トラは、記号価値がめちゃめちゃ高いということになります




まして、陛下が

平成28年8月8日の「天皇陛下お気持ち表明」で

日本文化の象徴として水石を飾られ


その水石文化の代表として

瀬田のトラを国民にお示しになられました


その瀬田のトラの中でも

他に類をみない唯一無二のトラとなれば

記号価値だけでも計り知れないということになります





また本質的(景、石質、石肌)にも

素晴らしいものがあります


質は、瀬田の虎石としては

かなり硬質です


水盤に置くと、隆起した山脈が

手前から奥へと、波状に、連続して

そびえ立っているような印象を受けます


台座にすえて立てて観賞すると

いっそう景に力強さを感じとれます



先生は、ご友人の方の「不動明王のようである」との感想をうけ

この石に≪迦楼羅≫(かるら)という銘をつけています


不動明王の火焔の光背は

怪鳥 迦楼羅〔かるら・金翅鳥(こんじちょう)ともいう

頭や羽が金色で、両翼が336万里もある

変化自在。1日に1竜王と500の小竜を食べ、寿命は8千年という〕が

羽を広げた姿に似ることから

迦楼羅焔といいます






鎌倉時代初期の運慶による不動明王

(神奈川県 浄楽寺 重文)




漫画 ワンピースに登場する

≪百獣のカイドウ≫

の雰囲気を漂わせる石です












かね虎





横18×高さ(台込)6.5×奥8  1025g







































この石は、月水苑の月水さんよりいただきました


叩くと金属音を発する真黒石を

「かね真黒」と言いますが


(とくに瀬田川の真黒において言われます

鐘のように叩くと音が響くからなのでしょうか)


かね虎は、金属音を発する虎石です




月水先生から


メルカリのカネ虎、よく見つけましたねー

凄い目が利く緋山さんには、誰もかないですね!


この瀬田川石

最初から瀬田川はわかっていましたが

虎? 梨地? わからず


石を打って、物凄いカネ石のような音を

響かせて、驚きました!??


また重い石です


部分的に、薄くチャートが喰っており

強弱、抑揚が効いて段になっています


何千何百と瀬田は見てきて

これがはじめてです


というメッセージをいただきました



底の白虎質すらも叩くと金属音を発します


石質、石肌、形姿 三拍子揃った上に

希少性がめちゃくちゃ高い


理想を超えた虎です









参考資料

日高の青虎と赤虎




青虎





横13.5×高さ14.5×奥11  3450g




北海道日高の沙流川(さるがわ)


青虎の小ぶりのもので

これだけ縞模様のよいものは珍しいです











横26.5×高さ(台込)10.5×奥13  およそ4.5㎏











赤虎






横16×高さ(台込)11.5×奥11  2716g







この石も沙流川の青虎石で

「赤虎」と呼ばれるものです


このように赤(紫)の入るものはめったくなく、形もいいです


底も含め自然のままです








参考資料

荒川の黄虎






横15×高さ(台なし)9.5×奥7.5  1635g
















荒川の上流部(秩父の寄居)で自採した石です

瀬田の虎より明るい黄色をしているので揚げました


質はチャート質で

通常の瀬田の虎よりは硬いです










瀬田川の金梨地石



金梨地石(きんなしじいし)というのは、瀬田川固有ではなく


同じ淀川水系の姉川や木津川

また、多摩川(東京都)、犀川(長野県)

久慈川(茨城県)などでも

わりといいものが出ているようです



犀川 金梨地石 

横 18.5㎝ 重さ 2401g




とはいえ、虎石やカニ真黒とともに

瀬田川石の代名詞のような石と言えます







金梨の虎





横24×高さ(台込)13×奥10  2991g













この石は、瀬田川の石を代表する虎石と金梨地石が合体した

とても贅沢な石であるとともに

非常に珍しい石です


形も遠山石としてそこそこよく、大きさもそれなりにあります



長崎県の水石業者 佳石庵の中路さんからいただきました











横41×高さ(台込)11×奥23  およそ11.5㎏

















この石も多少手が入っている感じもしますが

底も自然で、業者さんなら「全くのウブ」とうたって売る石です












横28.5×高さ3.5×奥13  1410g
















この石は、長野の月水苑の月水さんからいただきました

指で弾くと清音を発することからか

「隻手の音声」という素敵な銘がついていました



ちなみに、隻手(せきしゅ)の音声とは

五百年間出(ごひゃくねんかんしゅつ)の大徳と称された

日本臨済宗の中興の祖 白隠(はくいん・1685~1768。江戸中期)

有名な公案(こうあん・参禅者を悟りに導く課題)で


両手を打てば音声があるが、片手にどのような音声があるか?

という初学者のための公案です

その答えは、片手の音声は耳で聞こえるものではないが

五感をとぎすませば、ものごとの本質、真理を究めるべき

智慧が生じるといったところのようです












横20×高さ7×奥14.5  2082g













この石は、菊花石・水石専門業者 天勝庵の渡辺さんよりいただきました


渡辺さんは、水石収集も長年なさっていたので

ヤフオクに出品をはじめた当初は、かなりいいモノを出していました

長年、収集してきたコレクションを出していたわけですから


そんな渡辺さんが、瀬田川に探石にいったさい

付近の農家のご婦人から交渉して入手したとの話でした


気持ちよいくらい梨が出ています


ここまでの金梨となると

他の産地ではみられないのではないでしょうか?・・・




また、梨地の美しさという観点だけでいうと

瀬田川の金梨地にしても

現時点で、この石を超えるものはみたことありません


写真どおりのホントの黄金色です!!








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