緋山酔恭「山水石美術館」 全国の水石・美石を紹介 多摩川石 Ⅱ


多摩川石

〔笹本コレクション〕



多摩川石愛好会の三代目会長 笹本保男さんより譲って

いただいた多摩川石を紹介します




笹本さんは、多摩川石有数のコレクターであり

「多摩川石の他は興味がない」

「他の石を展示会でみても

多摩川石と比べると、硬さがなく、軽く感じてしまう

≪重み≫ ≪重厚さ≫を感じない」

と語られるほど

多摩川石への愛着が強く

多摩川の石こそ日本で一番であるとの自負をお持ちです



また、その言葉が嘘でないことは

紹介する石をご覧になっていただければ理解できるところでしょう





私の見解としては

肌合においては、佐治川と多摩川は別格とみていて

多摩川の石は、瀬田川をしのぐと感じています


石質という点においては、佐治をしのぎ

秀石となる石の種類においては、瀬田と同格でしょう



また多摩川の石は、「錆」が加わり

風合いを醸している石が多いのも特徴です


≪味わい≫という点においては

神居古潭石や只見あたりでは足元に及ばない

と思います




わたしの最初の石の師匠が

秩父の寄居の人でしたので


わたしの若い時分の収集の中心は

秩父の古谷系統の石や

梅花をはじめとする荒川の石でした


荒川でも、全国レベルといえる

質のよい真黒は出ます




荒川でもこれだけ硬質の真黒、ジャグレが採れます

(この石は特別でこのような石はめったにあがりませんが)





キンキンの質で16.67㎏あります

水に濡れていないところをみても

質のよさがお判りいただけるかと思います





しかし、多摩の大栗系統は

そういった全国あちこちにみられる

真黒系統のレベルではないのです




それと多摩川の秀石は

瀬田川石のそれのように

ヤフオクにときどき出品されるほど

数が出たわけではなく

業者さんからも、そう安々と入手できる

ものでもありません

その意味においては希少な石です



多摩の大栗系統は

硬すぎるゆえ

景となる石が少ないこともありますが


質感が、 あまりにも良すぎて

水石愛好家にはたまらず


景のよい石は

手放す人が出てこない

というのが現状です





そんな多摩川石ですが

笹本会長のお話では

「我々(愛石家)が拾う石は、原石地近くの沢で拾おうと

本流で拾おうと、全て大栗川と同質の石である

浅川も地盤が同じなので、大栗と同じ石である」

「採石地であったほとんどの沢が

埋めたてられて、宅地になってしまった」

とのことです



多摩川水系


とはいえ、南にいくほど大栗系の石は数が少なくなるそうです

大栗系の石が採れるのは

せいぜい浅川あたりまでのようです




そうした、愛石家が拾う多摩川石のほとんどが

指で弾くと清音を発するほどの硬さを持ちます




なお、笹本さんのその強烈な個性と人望で

どこの愛石会も、人が集まらない中

多摩川石愛好会は、会長の代替わり以後、会員を増やし

50名近くに及んでいます







現在、79歳の会長ですが

水石会のことばかりでなく、町内会の地域活動もあり

「病気する暇もない」

と語られるくらいに健康で

忙しくなされているそうです







以下に、多摩川愛好会の理念(一部省略)を

掲載しておきました




水石道は

従来「さまざまな趣味や芸術を会得し後に極めるもの」と言われてきました


しかし、華道・茶道・絵画・歌・彫刻等と共に、鉱物・地質・宇宙学を含め

その道義を理解することは、生涯をかけてもはなはだ困難なことと言えます


そこで、私どもは、趣味を含めたすべての芸術・美術の根源が

自然に裏付けられている事実を率直に認め

まず「自然に親しみ自然に学び」 自然と共に心身の鍛錬を行うこととしました


探石の催しなどで、石や自然にふれる機会を求め

極めて率直に、本来を会得し

それらを生涯学習の糧としているのです


自然を堪能しつつ、湧出するさまざまな情操を糧にすることで

あまねく趣味の分野や、芸術・美術の道義を理解できると確信するからです


浜辺や山川で、喜々として石を拾い、草を摘んでいたころの純白な思い出は

ふるさとの匂いとともに、誰もが生涯忘れえぬもので

民族性を代表する情操感は、最も尊ぶべきものと言えましょう



さて「心の豊かさ」や「人の道」が尊いものであっても

常には世情の裏側に追いやられ、とかく忘れがちです


石は、数億年自然と共に生き、さまざまな歴史をたどってきました

そうした石たちを偲び、石たちに耳を傾け語らうことで

心の余裕を探しましょう


水石道も所詮は、趣味ですが、究極の趣味と言えます





会員を募集されている

(年会費2000円)

とのことですので

笹本会長の連絡先を記載しておきます

090-2201-7806


神代植物園〔調布市にある都立の植物公園〕

での展示会(年一回)にも参加できます






クリックすると写真が拡大表示されます






横18×高さ(台込)9×奥11.5  1314g
















の石は、笹本さんが「自分の石の中で一番のもの」と語られる石です

私も拝見させていただき、衝撃を受けました


引っ込んでいる茶色の部分は

実際は、錆色に近く、写真よりも実物はさらに上をいきます


この石を自採したのは

高幡不動尊近くの小さな沢だそうです

そこは

会員みんなが競って採石にいった激戦区であったといいます


このタイプの石は、笹本さんでも他の2つしか所有していないそうです



もちろん、指で弾くと清音を発する硬さです











横24.5×高さ(台込)7×奥9  1155g













上の石と、この石は、おそらく、これまで、世にでた無数の

多摩川石のなかでも五指に入ると思わる名石中の名石です


全国1といっても過言ではないほどの

質、景、肌において、完璧な石です


とくに錆をまとった肌合いの素晴らしさが抜群です


硬さも水石レベルとしては、最高の硬度を持ちます


多摩川の支流 大栗川の沢での自採石とのことです


実際は、写真よりサビがもう少し赤く

さらにいい石です












横27×高さ6.5×奥9  1720g













笹本さんの自採石です



大栗の蒼黒の名石











横30.5×高さ5×奥13.5  1706g












笹本さんの自採の真黒石です


質は叩くとキンキン音がしますし

なんといっても肌芸がすばらしく

微妙なサビも多摩の特徴です












横20×高さ(台込)9×奥13.5  2349g










笹本さんの自採石です



大栗の蒼黒系の石てしょうが

この石は、通常のものと異なり、肌に特徴があります












横22×高さ9×奥16  3㎏強










笹本さんの自採石です



黒い石にサビが出ていて

肌合いがみごとです












横19×高さ8.5×奥10  1595g


















背面も肌がいいのですが

少し、逃げがある(右)ので

背面を正面にする場合このようにやや斜めに飾れば

問題なく観賞できます



笹本さんの自採石です



他の川ではちょっとみない石です











横21.5×高さ(台込)7.5×奥8.5  1044g























この石は、多摩川石愛好会二代目会長の中村戯石(ぎせき)氏の遺愛石で

三代目会長の笹本よりいただきました


大栗の蒼黒の名石です


台座は、戯石氏の作で

薄いですが、もちろん底切り石ではありません











横27×高さ12.5(台なし)×奥9.5  903g










そげ石です

笹本さんの自採石です


なかなかのそげで

色も写真よりも実際は黒っぽく、時代を感じさせます












横9×高さ(台込)6×奥5.5  280g







笹本さんの自採石です

台座は、多摩川石愛好会二代目会長の中村戯石(ぎせき)氏作


添え石としての

茅舎石としてはベストな大きさです











横11.8×高さ(台込)12×奥8  911g









裏側






「受け」と呼ばれる底の部分があることが

茅舎石(くずやいし)の良し悪しの1つの条件です


この石はちゃんと「受け」を持ちます



笹本さんの自採石です


茅舎石としてはベストな大きさです











横23.5×高さ(台込)7.5×奥11.5  1659g








遠山石の理想は、左右 3対7あるいは7対3の位置に

山が配置されることとされます


ちなみにシンメトリー(左右対称)の美を具現化したものには

宇治の平等院や、国会議事堂がありますが


3対7の美、中心をずらした美については

長野の月水苑の月水先生がブログで

バレリーナの写真をもって説明されています










笹本さんの自採石で

質のよい多摩川の真黒石です






もちろん底切り石ではありません






台座は、二代目会長の中村戯石(ぎせき)氏作によるものです


戯石さんは、底があまりゴツゴツした石の台座は作れなかったそうですが

作品は、心のこもった感じのする丁寧につくられたもので

素人の台座としては、なかなかのものです



薄くてセンスもいいですね




戯石会長とは、私も面識があります

戦地での経験もあり

お会いした当時、すでに90歳近くだったと思います



茅舎石(くずやいし)をとりわけ好み

また、雄大な景のものよりは

茶室に置くと映える感じの

侘び寂の利いた

小ぶりで上品な石を好まれました



物静かで穏やかな人柄の方でしたが

水石の本道、王道からはずれるのを嫌う

頑固な面も持ち合わせておられました




私の場合、日本の200名山のうちの150近くを登り

実際に名山を観てきたという

バックボーンから、石と向きあってきましたが


戯石会長の場合

水石と盆栽は切り離せないという考えや

侘び寂の重視という考えが

強かったわけです




それゆえ、盆栽にも精通しておられました


展示会のときのことです


会員が持ち込んであった盆栽を

「これはダメだ」とつぶやき


私(当時30代後半だったかな?)の目の前で

ハサミで勝手に、ムダな枝をバサバサと切り落とし

みごと≪空間の美≫を演出させたことがありました


そのときは

戯石会長の卓越したセンスに感じ入ったことを

今でも記憶しています










多摩川の石は

多摩川愛石会初代会長 三井遥石氏が発見し

広く世に知らしめたとされます


2代会長の中村さん、3代会長の笹本さんは

三井さんのお弟子さんで

水石ブームの当時、笹本さんあたりは若手であったと思われます



中村さんから聞いたお話では

三井さんは、とても厳しい方であったそうです



石に対して妥協しない人と評価できますが

独裁的な面も強かったようです



このため、三井さんと意見の対立する人たちが離脱し

新たに水石会を立ち上げていったと言います


現在、残る多摩川石のいくつかの水石会は

すべて多摩川愛石会を源流とし

こうして設立されていったそうです











横19×高さ7×奥10  1103g








南部鉄瓶を思わせる石肌です











質は、この石と同じで、キンキンの硬さです


笹本さんの自採石です











横20.5×高さ(台込)6×奥12.5  1915g







この石も、大栗の蒼黒系で、超硬質

もちろん叩くとキンキン響きます



島形として観れます

笹本さんの自採石です











横20×高さ(台込)9×奥10  1848g















笹本さんの自採石です


肌合いが申し分なく

質も叩くと響くほどに硬質です












横23×高さ7.5×奥9.5  1596g








前面、背面だけをみると完全に黒いのですが

底をみると大栗系の蒼黒ということが判ります









じつに味わいのある肌です

質も超硬質のキンキンです



笹本さんの自採石です











横23×高さ9×奥16  およそ3.5㎏







真ん中の部分の下が抜けていて

橋が架かったようになっています












横20.5×高さ(台込)8.5×奥12.5  1678g













素晴らしい段石です


質はカンカン響くほどの硬さがあり

石肌もいいです












横22.5×高さ(台込)8×奥11  1244g















前面、背面だけをみると完全に黒いのですが

底をみると大栗系の蒼黒系ということが判ります






上野の展示会で好評を得て

諸先生方に、名石との評価をいただいた記念に

台座の底にメモを貼りつけたとのことです















横21.5×高さ(台込)6×奥10.5  1094g




双耳峰(そうじほう)の美しい山です

























石肌が、南部鉄瓶肌に近く、底を見るとやはり大栗の蒼黒系です

このことから、南部鉄瓶肌の石も、大栗の蒼黒系であることが判ります













横18×高さ(台込)10×奥14  1989g
















大栗の蒼黒の最も川ズレの効いたタイプです


山形としても、溜まりとしても

形は、そんな大したことありません


しかし、大栗の蒼黒の場合

硬すぎるくらい硬い一方、粘りがないので

欠けやすく

これだけ川ズレが効いたタイプで

これだけの景は、かなり希少です












横12×高さ(台込)15.5×奥9.5  2958g













横16×高さ(台込)12.5×奥11  2595g





















横19×高さ(台込)8.5×奥15  2362g




























横24.5×高さ(台込)10.5×奥14  2424g























大栗の蒼黒石です

質、肌、景のそろった名品です



荒々しさがみごと!!


笹本さんの自採石です



古潭や千軒なんかとは硬さが違います

なにしろ硬いのです



瀬田や佐治さえ、風合いや重厚さにおいて

敵ではないでしょう







別のページでも書きましたが


多摩川石で、最も特徴的なのが

大栗川(多摩川の支流)の蒼黒石(そうこくせき・あおぐろいし)です



川の石なのに、古谷石のような硬質化した泥がついていて

これが川ズレの部分と対比をなし、独特の趣きを生んでいるのです







水石において

よく「時代かついている」とか「時代がのっている」とか

「古色がついている」

と表現されるのは、養石によるものです


大栗の蒼黒の風合い(古色)はそれとは違います


硬質化した青白い泥によるものです





じつは、大栗の蒼黒の固有性に惹かれた私は

何人もの業者さんに問い合わせたことがありました


北は、亡くなられた一選堂(旭川)の相内さんから

南は、長崎の諫早の中路さんに至るまでです

しかし、知っている人がいません



いちばん期待したのは

東京練馬の山水園の笠原さん(2017年に没)です


なんといっても東京の業者さんであるし

盆栽のついでに水石も売っているような石がよくわかっていない業者ではなく

高級水石専門という感じの山水園さんです


笠原さんは、水石界に多大な功績を残した方でもあります




ところが大栗の蒼黒については全く知識のないようで

多摩川の石についても

「多摩川にも水石家がいて、石を楽しんでいるみたいですね」

程度のものとしてしかみていないといった感じでした





唯一、大栗の蒼黒について

話ができたのが、長野の月水苑の月水先生だったのです



まず、先生は

多摩川石は1つの分水嶺である

つまり、多摩川石を理解できるか、できないかによって

その人にまだ先があるのかないのかを、判断できる

と言われ


さらには、多摩川石こそ水石趣味の頂点である

とも言われました




そして

月水先生は、こうおっしゃられました

「大栗の蒼黒は、二度漬けされた石だと思わないかね!!」と・・・



二度漬け、大阪名物 串カツは、二度漬け禁止なんて決まりがあるようですが

なんのこっちゃ?



先生は、大栗の蒼黒は

一度、山から川に入り

川ズレした石が、ふたたび地殻変動によって山の石となって

古谷石のような泥をまとい

そしてまた川に帰ってきた石のではないのか?

と語られたのです




つまり

二度、川に漬かった石ではないのか?

そう解釈しないと、このような(川石と山石が同居したような)

雅趣に富む雰囲気は生まれないだろう と考えたわけです



この月水先生の発想というか理解には

驚嘆したのを覚えています






それと、若い時分、秩父の古谷石の採集を

活動の中心としてきた私の感覚としては


多摩川石=川の石 と思われがちですが

むしろ土中石の性格のほうが強いと思うのです



その根拠として、原石地の沢で拾った石は

古谷石や亀甲石のように硬質化した泥を落として

観賞石となるからです



これに関しては、月水先生は

「多摩川石は、土中石です」と明言しています



このように、多摩川石は

土中石の性格を合わせもつゆえに

かつては、ときに

笹本コレクションで紹介したような

素晴らしい山形景の石も得られたのではないか

と考えられるわけです





後日、笹本さんから聞いた話を加筆します


笹本さんは、最初、日野の水石会(多摩川石系)にいて

そこの会長さんが亡くなり

三井さん(初代会長)の設立した

多摩川愛石会に移られたそうです



しかし、笹本さん世代のときには

多摩川の本流も沢も、すでにひととおり

拾い尽くされたあとで

秀石を、たやすく揚げられる状況にはなかったそうです



ところが、当時、大栗川流域の宅地開発が始まり

水道管を埋める工事が盛んになされることとなったのです


水道管を埋めるのに

地面を掘ると、残土が出ます


笹本さんは、その残土の中の石に目をつけました


(ちなみに、水道管工事の埋戻土には

掘削時に発生した残土はなく、改良土を用いる)



工事が始まる頃になるとテントが張られます

そのテントの大きさで、工事の規模がわかるので


「そろそろ始まるな」

「今度の工事は大きいな」

と目をつけておくそうです



そして、工事が始まると

残土はトラックで、山のほうに捨てにいくので

車でつけていって、その場所をつきとめ

残土をあさったり


朝早く起きて、作業が始まる前に

掘られた穴に入って探したり


工事作業員の人に

コーヒーやジュースをふるまい

「ちょっとみさせてください」

と頼んで探したりしたと言います



また、笹本さんは

「多摩川で自分ほど熱心に探石した人はいないよ」

というくらい努力したこともあり


これだけの名石、秀石を収集できたわけです



こうした話からしても

多摩川石というのは、半分、土中石と言えるのです












横49×高さ(台込)23.5×奥32  およそ21㎏


































山形の溜まり石です






日本随一の紅葉で知られる

北アルプスの涸沢カール

転写




転写


カールとは、氷河によって削られてできた谷のこと

スプーンでえぐったような地形をしています






北アルプスの名峰 白馬岳(しろうまだけ)への

登山道となっている

白馬大雪渓  転写


日本三大雪渓の1つ

(他は、針ノ木と剱沢・ともに北アルプス)

夏でも万年雪に覆われいます





この石は、名石の多い

笹本コレクションの中でも、最高の石の1つです

実際、一番、高値で入手しています



瀬田のカニ真黒のような肌をしていて

そこに多摩特有のサビが混じり

なんとも言えない色合いです


渋味と雅味が同居している感じです


もちろん、質は、キンキンの硬さです












横29×高さ(台込)13.5×奥18.5  およそ8㎏





















大栗川の蒼黒石の段石


写真では黄色く写ってしまっていますが

実際には、石にたかった泥(古色)は

錆色です




多摩川石を代表する

大栗川の蒼黒石の魅力について掘り下げていくと

「粘りのなさ」に行きつきます


古潭をはじめとする真黒系の名石のほとんどが

粘りのある石であるのに対し

大栗の場合、粘りがありません


この粘りのなさと、超硬質という硬度によって生まれる

質と肌が、愛石家の心を惹きつけてやまないもの

となっているかと思われます



いわば、古潭が、木喰仏(もくじきぶつ)なら

円空仏的な魅力があります












ちなみに「木喰仏」〔柔和で穏やかな表情の微笑仏〕の作者

木喰行道〔1718~1810・木喰五行、木喰明満などとも称した〕は

木食戒を受けてから10年以上を経た56歳のときに

開国修行に出たとされます


60を過ぎてから仏像彫刻をはじめ、91歳で死ぬまでの30年間

北は北海道の有珠山(うすざん)山麓

南は鹿児島県までおびただしい数の作品を残しています


この間、佐渡に4年、日向(宮崎県)に7年留まったのを除けば

1つの土地に長く留まることなく、全国を行脚したとされます


なお、行道ともに各地を旅して造仏活動を行った

弟子の 木喰白道(びゃくどう)の

「白道仏」(作風は木喰仏と同様の微笑仏)も

各地に160体以上が発見されています




木喰(木食)とは、肉食・火食をせず、穀物も食べず

もっぱら果実、木の実、草の根を食べて

非凡な霊力を身につける行だといいます


回国修行することから木食遊行といい

木食僧は、獲得した神通力により

念仏や祈祷をして病気治しなどを行った
そうです

















木喰仏とよく対比されるのが

木喰行道より1世紀ほど前の行脚僧

円空(1632~95・江戸前期)による「円空仏」です

荒削りで野性的な作風で知られる円空仏は

北は北海道・青森、南は愛媛県までおよぶそうです



円空は生涯に12万体の仏像を彫ったと伝えられ

5千体を超える数の円空仏が現存

うち愛知県内で3千体以上、岐阜県内で千体以上残るといいます



円空の円熟期の作風は「鉈ばつり」と呼ばれ

「はつる」(鉈を上から下に振り下ろす)ことによって

木材をダイナミックに刻み

力強さ、躍動感、ある種の潔さを与えています







粘り(靭性)とは?


ダイヤモンドがモース硬度10に対し、翡翠は6.5~7とされます

但し、モース硬度とはひっかき傷に対する抵抗力を示すもので

ダイヤはハンマーで叩くと粉々に割れてしまいます

これに対し翡翠は、ハンマーを跳ね返すほど硬い石です



ダイヤが、劈開性(へきかいせい・ある特定方向へ割れやすいという性質)

をもつのに対し、翡翠はもちません



「欠け」とか「割れ」に対する抵抗を靭性(じんせい)といいます


最も粘りのある材料として知られる

カーボナードを10としたときの靭性は


カーボナード  10

コランダム(ルビー・サファイア)   8 

翡翠の硬玉(ジェダイド)  8    翡翠の軟玉(ネフライト)  8

ダイヤモンド  7.5   水晶  7.5

エメラルド  5.5   トパーズ  5



カーボナードは、ダイヤモンドの微細な結晶が緻密に集積したもので

ブラックダイヤと呼ばれます

生産量は少ないそうですが、宝石としての需要は少ないため

単結晶ダイヤモンドと比べると安価といいます


カーボナードは、劈開性をもたないため

単結晶ダイヤモンドと違い非常に割れにくいわけです



ダイアモンドの硬度が高いのはよく知られていますが

靭性は水晶と同じ7.5で、あまり高くありません


エメラルドが割れやすいのは靭性が低いからです


翡翠が割れにくいのは

モース硬度は低いけれども靭性が高いからです




水晶には

柱を斜めに切るように割れる

「不明瞭な劈開」があるとされます


これに対し、劈開がなく、粘りのある瑪瑙なやジャスパーは

彫り物などに加工しやすいわけです




なお、石英鉱物は、目に見えるほど大きく結晶しているもの

つまり顕晶質(けんしょうしつ)のものを「水晶」と呼びます


一方、ミクロサイズの結晶が集まった潜晶質(せんしょうしつ)のものは

「カルセドニー」(玉髄)、「瑪瑙」(アゲート)、「ジャスパー」(碧玉)に分けられ

「カルセドニー」(玉髄)と「瑪瑙」(アゲート)は、半透明なモノ

「瑪瑙」(アゲート)は、カルセドニーのなかで模様の美しいモノをいいます


これに対し、ジャスパーは

酸化鉄や粘土鉱物などの不純物が多く、不透明なモノを指します






,粘りという観点から

あえて極端な譬え方をすると


古潭の本真黒が、翡翠系統の石

多摩の大栗の蒼黒が、ダイヤモンド系統の石

と言えます








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