各地の翡翠 そもそも「翡翠」とくくりますが 「硬質翡翠」(ジェダイト)と「軟質翡翠」(ネフライト)に 鉱物的なつながりはなく、見た目では区別がつきにくいことから どちらも「翡翠」(ジェード)と呼んでいきたそうです 歴史的経緯は 中国では、軟玉(ネフライト)しか採れず 古代より中国で価値ある宝石とされてきましたが 18世紀に入りミャンマーでジェダイトが発見されたため ネフライトは軟玉と呼ばれ区別されるようになったといいます 日本では、地方の緑色の石を 産地名をつけて長崎翡翠とか日高翡翠などととよびます こうした石は、産出量が少なく、採掘できなくなっているものもあり 鉱物ファンにとっては、本物の国産翡翠と同等 あるいはそれ以上に惹かれる存在となっているようです そこには絶滅した動物、マンモスやナウマンゾウなどを 捕獲しているような心情があるなどと表現されているかたもいます 一方、別の土地でなら〇〇翡翠と呼ばれたはずであろう石が 姫川の河原やヒスイ海岸にあるばかりに 本物翡翠に似たあやしい石とさげずまれて 「キツネ石」とよばれているわけです 日高翡翠 日高翡翠は、昭和39年(1964)に 函館市在住の資産家、久保内貫一氏が 日高山脈には緑の石が多いから 「ここには必ず翡翠がある」と考え 日高町在住の村上晃氏に翡翠を見つけるよう 要請したことに始まるとされます 2年後の1966年、日高町の 千露呂川(ちろろがわ・沙流川の支流)の支流 ペンケユクトラシナイ沢に翡翠様の石が発見されました 折しも来日中のアメリカ地質調査所のコールマン博士と 北海道大学の八木健三博士とが問題の露頭を見て 「軟玉ひすい発見」という記事を北海道新聞に寄稿したといいます 翡翠には、ヒスイ輝石からなる硬玉(ジェダイト)と 角閃石からなる軟玉(ネフライト)がありますが その後の研究で、日高翡翠は、クロム透輝石からなり 本来の翡翠ではないことが明らかになりました 日高翡翠は、クロムを1%含むクロム透輝石を主体に 種々の鉱物が緻密な構造を成す「クロム透輝石岩」だそうです ただ、翡翠のように織物状の構造をしていて 強靭でいろいろな細工に耐えうること 透明感や緑の美しさが翡翠と遜色ないことから 1980年、日本宝石学会誌に 「北海道千栄産クロム透輝石ヒスイ」と公表され 国際的に第3の翡翠として公認されることとなったとそうです 「橄欖岩」(かんらんがん)から「蛇紋岩」に変質するときに 放出されたカルシウム成分を 周りの石か取り込むとで 「ロジン岩」(ロディン岩)が生まれます (ロジン岩は、糸魚川ではキツネ石と呼ばれるものの1つ) 蛇紋岩が、ロジン岩を形成し ロジン岩が日高翡翠形成に 大きな役割を果たしていると考えられています なお、ロジン岩は、透輝石、単斜灰簾石 ぶどう石からなる岩石で 色が白く、きらきらの結晶がみられるので 翡翠と非常に紛らわしいとされます 比重も3以上あるため、比重測定では 翡翠とロジン岩の区別は困難とされます 〔ジェダイトの比重は3.2~3.5 誤差を考えると 3以上ならジェダイトの可能性大とされる〕 但し、ロジ岩は振動に弱く、たやすく割れるそうです また、糸魚川の透輝石は薄緑色で透き通っていて 他の鉱物と共存しロジン岩と呼ばれる岩石の 構成鉱物になっているそうです 日高翡翠は、装飾品用に加工されるなどして 昭和40~50年代に広く販売されたといいます 但し、日高翡翠の原石自体は 発見から3年ほどで採掘し尽くされたようです また高品位の日高翡翠は、取りつくされたとされていますが 今でも日高の町を流れる沙流川では まれに拾える事があるようです 日高の水石業者 貝澤さんよりいただいた画像 日高翡翠の最高の質で 先代が採取したものとのことでした クリックすると写真が拡大表示されます 横10×高さ6.5×奥8 856g 横26×高さ16×奥18.5 およそ10.5㎏ この石は、亡くなられた一選堂(旭川の水石業者)の相内さんに 日高翡翠を収集している人にあたってもらい入手した石なので 間違えないものだと思います 川ズレのウブ石です 日高翡翠は、緑と白に黒いツブがみられるのが特徴です 本石は割っていないのではっきりと確認できませんが のちに入手した100%日高と言える石と 白い部分の質が全く一緒なので 本石も日高翡翠であることは確実です さらに、金沢市の鉱物標本店 石の華さんの ようこそ石の華へ 鉱物の部屋へのいざない https://blog.goo.ne.jp/ishihana427/e/f70657 f82a941990a5bf0fb797452324?fm=entry_awp というブログにこうあります 【 私はどちらかと言うと翡翠は苦手な石です それは肉眼的にわかり易い結晶が無く、鉱物と言うよりも岩石だからです 翡翠には硬玉(ジェダイト)と軟玉(ネフライト)がありますが 日高翡翠は翡翠輝石ではなくクロム透輝石からなる岩石で 第三の翡翠と認定されています (翡翠はややこしい石です。例えば、インド翡翠はアベンチュリンですし 長崎翡翠はニッケル菱苦土石です それから、似たような石が多く、肉眼鑑定が難しい石です) ただ、今回の日高翡翠には興味深い模様が付いており、面白いと思いました 】 10年来、「この石、ホントに日高翡翠かな?」という 疑問を持ち続けていましたが 本石も、白い脈線が複雑に幾重にも折り重なる 模様を有しています 石の華さんのおかげで100%日高翡翠というのが分かりました 21×18.5×10.5 5.1㎏ この石は、ヤフオクで落札しました 商品説明に 日高ヒスイの透過部分が映える美しい個体になります 50年以上前に僅か数年で枯渇した貴重な鉱物です 宝石質の原石としての一般的な流通はほぼないです 透過の多い部分をを3000番まで磨いておりますので 鑑賞石と標本としてそのままお楽しみいただけます とありました この写真の上は磨いていない 23.5×11×9 2948g この写真の左は磨いてある この写真の上は磨いていない 1つ前の石と同じ出品者より ヤフオクを通していただきました 商品説明に 日高ヒスイの鮮やかな緑色と模様が美しい個体になります 透過性はあまり高くありませんが 日高翡翠独特の模様と鮮緑が際立つ 鑑賞石としては一級品だと思います とありました 横26×高さ16.5×奥16 9.8㎏ ヤフオクを通して地元の方より入手 一番お気に入りの日高翡翠です 水で濡らすととても綺麗です 乾いた状態 乾いた状態 神居古潭石 翡翠系 神居古潭石(かむいこたんせき)については 神居古潭石とは を参照してください 横29.5×高さ(台込)9.5×奥7 2273g 底切りなしの自然石 この石は、硬質の緑泥(りょくでい)の神居古潭石に 翡翠らしき石が混入しています 緑泥は、ふつう比較的、軟らかいのですが この石は、指ではじくとキンキンと音がするくらい硬いです 亡くなられた一選堂(旭川の水石業者)の相内さんよりいただきました 長崎翡翠 長崎県でのヒスイ輝石の発見は、昭和52年(1977) 当時大学生であった、九州大学の西山忠男教授によります 西山氏は、卒業論文のため 長崎県の西彼杵(にしそのぎ)半島を調査していたとき 長崎市三重町の海岸で淡緑色の翡翠を発見したといいます 三重町三京海岸には1~1.5m大の翡翠の転石が 3個、保管されているらしいです また、長崎市三重海岸に露出する緑色岩には 陽起石(ようきせき) 緑廉石(りょくれんせき) 緑泥石(りょくでいせき) 曹長石(そうちょうせき)などの変成鉱物と共に ごくわずかですがヒスイ輝石が含まれていて 「三重海岸変成鉱物の産地」として 県の天然記念物に指定されています (1978年指定) その後、西山教授の研究グループは、平成15年(2003) 三重町の琴海町(きんかいちょう)の小さな沢(戸根渓谷)で 世界的に珍しい石英入りの翡翠を発見しています 曹長石(そうちょうせき)という岩石が ヒスイ輝石と石英に分解されるという化学反応によってできたと考えられ その証拠に石英が含まれているそうです 宝石としての価値は低いものの ヒスイ輝石岩中に石英の含有分が多く 地質学的に大変珍しいものであることから 市の天然記念物に指定されています こうした翡翠輝石とは別に 観賞石とされてきた長崎翡翠というのがあって これは、クロム、ニッケルによって色がついたドロマイト(苦灰石)と 石英が混合した岩石だといいます ドロマイトとは、珊瑚などの生物が海底に堆積して石灰岩になった後 カルシウムの一部が海水中のマグネシウムに置き換わっ て生成された鉱物だそうです 緑色はニッケル発色によるといいます 古墳時代には勾玉や管玉が作られたこともあったらしいです 横10.5×高さ(台込)21×奥8.5 2400g 翡翠似の長崎翡翠のニセモノも多いですが ホンモノはこのように茶色が入るそうです 石は キラキラしています 長崎県の佳石庵の中路さんからいただきました 横12.5×高さ9.5×奥10.5 1720g この石は、琴海町産で 翡翠輝石とも思える緑点がみられます ジェダイトの長崎翡翠かな? 若桜(わかさ)翡翠 日高翡翠や、長崎翡翠がジェダイドでないのに対し 鳥取県若桜町の翡翠は、れっきとしたジェダイトです 基本、ラベンダー翡翠で、白や青もあるようですが、緑はないようです 糸魚川(青海・朝日・小谷・白馬を含む)の他に、国産のジェダイドは 鳥取県の若桜町、岡山県新見市の大佐山 兵庫県養父市(旧 大屋町の加保坂)が知られ 他にも、北海道の旭川市の神居古潭地区と幌加内町 群馬県下仁田町茂垣、埼玉県の寄居町 静岡県静岡市中河内川と浜松市(旧 引佐町)、 高知県高知市円行寺地区、徳島県勝浦川と眉山、愛媛県野村町 長崎県長崎市三重町と琴海(きんかい)町、熊本県八代市泉町、 などで確認されているようです こうした各地のジェードのなかでも 若桜ラベンダーは、観賞石としての美しさをもっています 大佐山や大屋町加保坂の翡翠は、鉱物サンプルにはなっても 観賞石にたるような石は、まだ写真ですらみたことはありません 若桜町の北東の角谷という所で昭和40年(1965)に発見されたといいます 発見者は日本鉱物趣味の会の会員で一行寺という寺院の住職 中野知行(当時47)という人です 若桜のひすいも偶然の発見ではなく狙って見出されたそうです このあたりには出るとめぼしをつけ、山を歩き回って探しあてたといいます 発見した大小約30ケのうちの1つは、1.7m、4.5トンもあったそうです 現在では角谷川では翡翠は見られないようです 若桜翡翠は、「氷の山」 (ひょうのせん・1510m、日本300名山)の西方山麓 三郡帯と呼ばれる変成岩の分布する地域 蛇紋岩が貫入したあたりに出たと考えられています 蛇紋岩は風化しやすいため、翡翠は転石となっている場合が多く 角谷川流域において発見された翡翠も全て転石であったそうです その後探査を繰り返したそうですが 母床と見るべき岩石は発見できなかったようです 横18×高さ8×奥13 2524g 糸魚川の石とは、ラベの入り方が違います 表面は、ワックスが塗ってあるようです これで7万ほどしました 写真は、やや青味が強く出ています 利根川翡翠 利根川翡翠は、群馬県沼田市片品川上流で採れるとあります 翡翠似の石でしょうが、なかなか美しい石です 横20×高さ(台込)9.5×奥11 1392g 秩父、荒川の翡翠 荒川の源流は、奥秩父山系の 甲武信岳〔こぶしだけ・甲州(山梨)・武蔵(埼玉)・ 信濃(長野)の県境にある山。日本100名山〕 だとされます 下流で隅田川が分かれ、本流・隅田川ともに東京湾に注ぎます 荒川の上流、寄居あたりまでは、梅花石が拾えることで有名です 秩父の翡翠を調べてみると 埼玉県皆野町三沢地区、秩父市黒谷地区に 硬玉(ジェダイト)と軟質(ネフライト) 大滝村中津川に、硬玉 大滝村中津川渓谷上流の秩父鉱山に、硬玉 寄居町三品地区に、硬玉(石英岩中にわずかにみられる程度) が出るとあります 三沢川は、荒川に注ぐ小さな川で 三沢川上流では、蛇紋岩と一緒に軟玉(ネフライト)が 見つかることがあるといいます このネフライトの秩父翡翠で作られた 平安時代の石帯(皮のベルトに装着する装身具)が 旧妻沼町(現熊谷市)の鵜ノ森・入胎遺跡で出土しているそうです 熊谷市江南文化財センター所蔵 転写 昭和40年刊行の木耳社「水石」 村田慶司にみられる 秩父の翡翠 とありますが 村田氏のこの話がおかしいのは 翡翠の場合、緑のところが「翡翠」であとは母岩というのではなく 翡翠の基本は「白」で、それに別の鉱物が混じったところが 緑になったりラベンダーになったりするわけで つまり白い母岩を含めて全部が翡翠なのです 逆に、この写真で翡翠としている石は ジェダイトなのかな? という感じさえします 横16×高さ16×奥7.5 3㎏強 寄居付近の川原でこのような素晴らしい翡翠が拾えました 15年くらい前に、知り合い(私に最初に水石を教えてくれたHさん)と 荒川に石拾いに行った際、Hさんが拾ったものを譲ってもらったものです なので正真正銘の荒川の翡翠、秩父の翡翠です 当時、Hさんは、毎日のように荒川の川原に石拾いに行っていましたが このような石ははじめて拾えたそうです 三沢産か、中津産かもわかりませんが 三沢川あるいは中津川から荒川本流に流れてきたものでしょう また、硬玉か軟玉かはわかりませんが 白地に緑(アップルグリーン)が入るという様式は、硬玉そのものです なお透過はありません 緑の部分は、蛇紋岩らしいです なんといっても川ずれがきいていて 山形にして飾れるというのがいいいですね 寄居の翡翠 Field Note フィールドノートさんの https://planet-scope.info/Nishinoiri.html 埼玉県寄居町西ノ入のヒスイ輝石と藍閃石 というサイトの記事を引用させていただきます 【 寄居町西ノ入には稚童岩と呼ばれる ヒスイ輝石を含む岩石の露頭があります ここの岩石はヒスイ輝石を50%ほど含み、残りは大半が石英 さらに脈状に藍閃石含まれています 糸魚川などの 宝石になる「ひすい」はヒスイ輝石が90%を超える割合で 含まれている"岩石"です そのようなものは緻密な結晶から成る岩石のためハンマーで割るのは大変ですが こちらの埼玉のヒスイは比較的容易に割れます 】 JR八高線折原駅より稚児岩まで、およそ1時間かかるようです 稚童岩 ヒスイ輝石を含む岩石の露頭 クリックすると画像が拡大表示されます 横16×高さ17×奥14 5.5㎏ 石英がはっきりとみられます この石は、私の石の最初の師匠から もらってきました 「石英がくっついているのがよい」ということで この石をもらってきました 師匠H氏は、勾玉にしているようですが 珍しいということで、ほしがる人はいるようです 磨くとこんな感じになるようです
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