緋山酔恭「山水石美術館」 日本の美がここにある!! 全国の水石・美石を紹介


底切り石に対する見解




観賞石の愛好家であられる

桜えび様より


菊花石等の磨き石でも底切りはダメなのか?

という質問があり

その関連した話として



なぜ、水石の場合、底切り石は、ダメなのか?

ということについて

およそ以下のように

私の見解として、お答えさせていただきました




もちろん、観賞石の収集は

価値の範疇であって


1+1が2が正しく(=真理)

1+1が3が間違え(=虚偽)といった

真理の範疇ではありません


つまり、個人の価値観の範疇なので

なにが正しく、なにが間違えというのはないのですが

金銭的な評価、いわば客観的な価値が

高い、低いというのはあります




では、なぜ水石の場合

底切り石の客観的な評価が低いのでしょうか?


美石(色彩石や紋石)の場合は、色彩や菊の花などを楽しむものですが

水石の場合、石質や石肌とともに

形というのがとても重要な要素としてあるからです


つまり水石というのは「天工の妙」を楽しむ世界なわけです



歴史的にも中国の愛石家は

「長いものは屈して短くし、大きなものは削って約す」と

石を加工するのに少しもためらいがなかったとされるのに対し

日本では「作りたるは死体として用いざるなり」として

全くの自然が好まれたとされます

(昭和40年刊行 村田憲司編集 木耳社 水石 参考)




昭和30代後半から40年代前半の水石ブームのときは

一般の人も石を買いましたから

石不足のこともあり

底切りも良しとされたようですが


今は、水石を趣味とする人も減り

また本当に石の好きな人だけ残ったことにより

底切り石の評価が下がったわけです




もう一つ、なぜ底切りがダメかというのを

別の観点から述べさせていただきますと


私たち人間は、眼という感覚器官を通して入ってきた情報を

脳で観賞するからです


どんなに景が素晴らしくでも

心(脳)のどこかに「底切り石」という意識があると

眼ではすごい石であっても

それがひっかかって楽しめないわけです



但し、水石の一分野に、総作り石というのもあります


与十郎石や加茂の加治屋石といった

名工がつくったみごとな総作り石は評価がつきます


とくに外人さんにすごい人気らしいです



こうした石は、本来の「天工の妙」でなく

天より与えられた材を活かした

「名工の妙」を観賞するわけです





その一週間後くらいでしたか・・・

ヤフオクに写真の石が出品され

6日後、最終的に25万という値段で落札されたので


それについての

私のおよそ以下のような見解を

桜えび様に送らせていただきました























実は、昨日、瀬田川の底切りの石

(サイズは、およそ38センチ、3.6㎏)

が25万の値がつきましたよ


わたしも良い石だと思って

当初、12万は覚悟し、8万くらいまでで落ちれば

と思っていました


最後の10分までは3万くらいでしたので

適当に6万いくらかで入札したと思います



ところがそれでは落とせず

私もついつい熱くなり

18万まで入れました(笑)


最終的になんと25万までいきました





なぜ底切りなのに?

という話ですが


この石は、底切りといっても

上がみごとな景であること

底直しといって、底が自然風に処理されていること

瀬田川というブランド力をもつこと

という要素をもっています



ただ、仮にそれだけでしたら

せいぜい5万の勝負でしょう

わたしも7、8万までしか入札はしなかったはずです




出品者の方によると

底切り以外は、≪自然≫ということですが


長野の月水苑の月水先生は

「天下の名石の99%以上は手が入っている」

「総作り石(与十郎石)の名手、有澤氏は加工跡1つも残さなかった」

という立場をとっておられ

これだけの景の石に手が入っていないはずがない

という疑問もあります





ではなぜ私が12万くらいまでならほしいと思い

オークションであおられたこともありますが

20万近くまで入札したか?

ということですが


それは景だけでなく

肌がよかったからです

肌を同時に観賞できる石だったからなのです


むしろ景は

この肌を観賞するための

最高の演出にすぎない

とさえ感じていたのかもしれません





それとこの石のように肌に皺(しゅん)があるものを

削ったり、酸で溶かして、形を加工したら

加工した部分は、皺がなくなるはずだ!!


しかし、この石は、皺がちゅんとあるので

形はホンモノのはずだろう

 とも感じさせるわけです





皺がなくなるとは

塗り壁でいうとこういう感じになるはずだ

ということです




実際はどうかわかりません

有澤氏ならその問題さえも

クリアしていたのかもしれませんし・・・






私の知り合いの友人が、庭石として名高い 三波石(さんばせき)の業者で

庭石も丸みがないと売れないので樽磨きをするそうです


500㎏(1mくらい)もある大きな庭石でも樽磨きはなされています


樽磨き、樽ころがしとは

同質の硬さの石(大きな石と小さな石を混ぜるようです)

と一緒に、コンクリートミキサーのような機械でころがし

研磨することをいいます


糸魚川の翡翠でいうバレル研磨です



「樽磨き」とは、何百年、何千年、何万年とかけてなされる「川ずれ」の雰囲気を

機械的に短期間につくり出す方法と言えます


どれだけ樽をかけたかで仕上がりが違うものとなります




樽をかけ終えた当初は、石が削れた表面が白っぽくても

しばらく外に置いておくと、それがなおり、川ずれ石のようになるそうです


雨にあてると、表面が自然石のようになるということです




三波石  転写




同様に、加工した石を、しばらく雨にあてるか

またなにかの薬品につけておけば

自然石のようになるのかもしれません



有澤氏のような名工は

何種類もの先のとがった

小さなの金づちを用い

石をコツコツ叩いて

形をつくっていくと聞きます





いずれにせよ

月水先生のいうように

ウブかどうかなんて、実際のところ 本人しかわからない

ところもあり

水石趣味というのは、そういうあいまいさを含めて

みんなで あーだ こーだ 言いあいながら

楽しむものだ ということなのかもしれません






それともう一つ

長野の月水苑の月水先生が

石を買うのは理屈ではなく

「感情で買うのです」

と言われていましたが

そのことにようやく最近、理解が至ってきました



以前は

いろんな種類や産地の石を収集したいという欲求と


水石界の常識、それと自分の知識や経験

という2つのパラダイム(支配的な考え)のもとに


石を購入していた

という部分も多くあり


真に、≪感情を基準にしていたか?≫と問うと

「そうではなかったな」という答えとなります



しかし、今は、およそ石も集まったことから

≪心が本当に欲するものだけを求めていこう≫

という思いが強まり


今回、ヤフオクに出品された石が

まさにそうであったということになるわけです











文化圏による
加工に対する意識の違い




静岡あたりの水石文化では

石に手を加えることに寛容のようです


静岳石を黒く染めることは広く知られています


また、天竜川のピンク梅花の母岩を墨で染め

ピンク花の周りを針でふちどって丸くしたり

さらには石をひっかいて枝までつくったりすることもなされています



それから、母岩を墨?で黒く染めた滝石も

かつてはさかんに作られたようです


底切り石もそれほど問題にしないのか

ヤフオクをみていてもあきらかなように

他の地域に比べると、かなり多く出回っています





ヤフオクで自然石として入手した滝石ですが

底切りで、滝のあたりに手が入っていて

さらに黒く染めてありました


ワイヤーブラシでちょっとこすったら

白っぽい肌が現れてきました(右部分)





関西圏も、同様で

とくに京都の石の名品は

「ほぼ全部がいじくってある」と表現しても

過言ではないくらいでしょう


瀬田川石も名石と呼べる次元のものになると

どっかかんか手が入っていそうなものばかりです


また、加工は、静岡文化圏よりも、ずっと技巧的な感じがします






北海道では

「潤石」という習慣があり

神居古潭石や幸太郎石に

機械油を塗ったり、ロウ引きしたりすることが

ふつうに行われているようです



白山紋石のご主人 山下さんのご友人が

3度、凡石さんのところに遊びに行かれ

石を買ってきたことがあったそうです


そのさい、凡石さんは

石にツヤを出すため

油絵で使うペンチングオイルを塗っている

と言っていたそうです


ぜんぶの石がそうではないでしょうが

石質の劣るものの大半はそうしていたようです



赤ちゃんの肌に塗るベビーオイルなんかだと

(ベビーオイルは水分が多いので

石に塗ってもサラダ油のようにベタつかない)

洗剤で洗って

しばらく雨にさらせば

すっかり落ちてしまいますが

ペンチングオイルなんか塗ったら落ちませんよ(笑)




正直、私の所有する古潭や幸太郎、トマムや千軒のなかにも

もしかしたらペンチングオイルのような

落とせないワックスが塗られていることを

怪しまざるを得ないものはいくつかあります


「もしかしたら」と表現したのは

かなり薄めて塗られているようなので、なんとも微妙なんです

(簡単に分かるような細工はするはずがないですし)



これらは完全な自然(ウブ)と称するものを

まちがえのない業者さんや

地元水石会のえらい方から入手したものですから

北海道の石も

つねに「そんなものだ」という認識は

もっておかなげればならないと思います




逆にいうと水石というもの自体が

「その程度のものである」

という認識のもとで

楽しむべき文化なのかもしれませんね






我々が絵を描くとき

絵具を水で溶かしますが、油絵の具の場合、水ではなく

ペンチングオイルなどを用います


ペンチングオイルは

「乾性油」(空気にふれると酸化され、固まる性質をもつ油)

「揮発性油」(溶剤・水彩絵の具の水にあたる)

「合成樹脂」(光沢をだし、固着をよくする)

が、バランスよく調合されているので

初心者は、これを使うと便利であるとされています


ちなみに、絵具というのは

「顔料」と呼ばれる鉱物などを砕いた色のもとを

「展色剤」と呼ばれる乾性油で練られているもので


「展色剤」は、顔料とキャンバスを

つないで固める接着剤の役目をするのだそうです







また、ペンチングオイルよりはましでしょうけど


八海山の産地では、KURE(呉工業) のCRC5-56をかけたりして

色を黒くみせて売っているそうです



愛知県の菊花石・水石専門業者

天勝庵の渡辺さんは、水石趣味もお持ちで

仲間と、八海山石の展示会および探石にいったのですが


そのさい現地で、なにかを吹きかけているのを目にし

水石会の会長に聞いたところ

「CRC5-56をかけている」

と言っていたとのことです



このことから

地元愛もあってでしょうが

渡辺さんは

「揖斐川石のほうが、ずっといい」

と言っておられました







養石というのは

石を雨ざらしにして、さらに水をかけては、太陽の光で乾かす

これを何十年と繰り返すことにより、黒く古びた感じにすることを言います


養石することを≪時代をつける≫と言います

なお、これは、石の表面が、化学反応によって変化したことを意味します



こうした化学変化を

人工的に補助してあげることについて

どこまで許すのか という問題もあるでしょう



例えば、サラダ油を、塗ってから

屋外に放置することで、養石を助ける


あるいは、米ぬか油や、手油をつけて

石にツヤを出す


この程度のことに反対する人はいないはずです



ある意味、ペンチングオイルやCRC5-56は

養石を一気に達成するためのものとも言えます







私の石の最初の師匠は

秩父の人でしたので

荒川の梅花石だけで、一部屋いっぱいになるほどもっていました


師匠は、梅花を飾る場合

水に濡れた状態に近づけて観賞するために

ベビーオイルを塗っていました


ベビーオイルは赤ちゃんの肌に塗るものなので

水分が多く、サラダ油、オリーブ油のようにベタつきません


また、粉石鹸で洗って

数週間、外に放置し、雨にあてれば

すっかりオイルは落ちてしまいます


わたしもこのため、川の石にオイルを塗るときは

ベビーオイルを用いています




ただ、一度、塗ると

洗剤で落とさないかぎり

そのままずっと観賞できる石と


石が油を吸うのか

油分が蒸発するのか 謎なのですが

(たぶん吸うのだと思います)

2、3日もするともとの状態にもどってしまう石があります


同じ荒川の梅花どうし

利根川の梅花どうしでも

油がのるものと、のらないものがあるので不思議です

塗ってみないとわからないところもあります




さりとて、油ののらない川の石に

古谷石で用いるワックス(床用の固型ホワイト)を塗ると

味気のないものになってしまいます



そこで、乾いたらまたベビーオイルを塗る、また乾いたら塗る・・・を

十回以上くりかえすと、ようやく油がのり始めて

1週間おき、さらに2週間おきでよくなり

仕上がってきます


こうした作業も広い意味での養石に入るのかもしれません






ベビーオイルだと、すぐ乾いてしまう

古谷のワックスでは味気ない

という場合に

両者の中間的存在として

「柳屋ポマード」がいいですね






柳屋本店は、1920年(大正9年)に

アメリカより技師を呼んでポマードを開発し

現在まで続くロングセラー品である

柳屋ポマードを製造販売している

と、ウキペディアにあるように


柳屋ポマードは、日本最古のポマードのようです



これは、茨城県結城市の水石業者 株木さんより教えていただき

株木さんが、色々ためした結果、たどりついたものだそうです


ポマードなら、人間の頭髪につけるものですから

簡単に落とせます



とはいえ、柳屋ポマードでもしばらくすると

もとの状態にもどってしまう石もあります






古谷用のワックスも

岐阜の菊花石でなさせれている

ロウ引きなんかと違って

粉石鹸で洗って

しばらく、外に放置し、雨にあてれば

すっかり落ちてしまうものです





ちなみにワックスをかけるとは

床用の固型ワックス(ホワイト)を石の表面に歯ブラシで薄く塗って

たわしでこすり、仕上げで布でこすれば完成です


色々なメーカーのワックスを試した結果

私は、リンネイの乳化性固型ホワイト 白木・白木床専用

というのを使っています







歴史的には、古谷のワックスには

イボタ(イボタロウムシより分泌されるロウ物質を精製したもの)

を用いたようです




古谷用のワックスならまだしも

石に、ラッカーやニスみたな

洗剤で落とせないものを塗れば

当然、味気のないものになるので

私の中では、最終手段です







以前、東京の板橋にあった石屋さんが

黒く染めた紀州の古谷石を

入手したことがありました



25年も前の話で、そのときすでに

その石屋さんはだいぶご高齢でしたので

もう亡くなられているはずです



私の最初の石の師匠が秩父にいて

当時、師匠が拾った秩父の古谷石を

その石屋さんがときどき仕入れにきていました


お金の代わりに、岐阜の菊花石やら

別の地域の水石やらを置いていき


師匠はその石屋さんが置いていった石を

私に売ったり、水石仲間との石の交換に用いたりしていたわけです




そんな石のなかに紀州の古谷の溜まりがあって

師匠に「この石なにか塗っていませんか?」

と尋ねると



師匠は

「(石屋さんは)おじいさんだから、(今、自然のままほうが売れるのに)

昔のことをやっているんだよ」

「古谷で、もともと質がいいのだから、雨にあて落としている(笑)」

と言っていたのを記憶しています



その石は、私が譲ってもらって

鉄ブラシで、黒の塗料を落そうとしましたが

容易に落とせるものでなく

磨きすぎて自然らしさがなくなってしまったのを憶えています



石というのは、凹凸があり

凹んだ部分に入った塗料を落とすのは簡単でなく

そこを落とそうと熱心にすると

周囲の凸の部分を磨きすぎてしまうわけです





横26.5×高9.5×奥13

今 は手元にありません



静岳石なんかを黒くする場合

業者さんは


墨汁に接着剤を混ぜたものを、温めて塗るようです


このとき、石も温めておいて

(夏ならひなたにおいとけばよい)


温めた石に、塗ると聞きました


もしやるのなら

接着剤も現在は色々と売っているので

色々買って、そこいらの石でためして

一番仕上がりがよい接着剤を使うといいとのことです



また、濃度を調整することで

石を好みの濃さに仕上げられますし


仕上がったあと、薄いと感じたら

二度塗り、三度塗りすればいいわけです







それから

渡良瀬川の桜石の花を白くするのに

シュウ酸溶液に浸けるというのがあります




渡良瀬川の桜石(川ズレ)



シュウ酸溶液は

山採lりした水晶なんかについた

頑固な泥を落とすのに用いられ

長期間、浸け込むことがなされています


土岐石の汚れ落としにもよく使われると聞きます



水晶のように、どこまでも白く

またどこまでも透明であってかまわない

というものなら世話がありませんが


渡良瀬川の桜石を、あまり高い濃度の液に

また、あまり長時間、浸け込むと

黒い母岩までが、白っぽくなってしまいます



白山紋石庵の山下さんは

色が鮮やかになるかと思い

瀬田の真黒を浸けこんだところ

白っぽくなってしまったそうです


また、しばらく雨にあてていたら

少し黒味が戻ってきたそうです



私も、 灰色がかっていた花を白くしようと

サバ花の多摩菊の小品を

1日ばかり浸けこんだら

(洗面器にスプーン2杯分くらいの溶液だったと思います)


母岩の色も落ちてしまい

シュウ酸の威力に驚いたことを記憶していますと




いずれにせよ、渡良瀬川の桜石の花を白くするというのは

養石のように、水垢?などを付着して黒っぽくする

というものでなく




養石が完了した揖斐川石



つまりあとから加える

というものではなく


もともと石に備わっている潜在性を引き出す

というものです





もち込みが古いとは?

油を塗るのは常識なのか?








 自己紹介
運営者情報



 時間論



 
 









トップページへ