緋山酔恭「山水石美術館」 全国の水石・美石を紹介 多摩川石 Ⅰ


多摩川石




多摩川は関東南部を流れる川。長さ138キロ

秩父山地の笠取山(1953m)の山頂の南斜面下「水干」(みずひ)を源とし

上流部では柳沢峠から流れ込んでくる柳沢川と合流するまで

一之瀬川(いちのせがわ)と呼ばれ

そこから下流は丹波川₍(たばがわ)と呼ばれます

その後、小菅(こすげ)川と合流し、奥多摩湖に入ります



多摩川と呼ばれているのは

奥多摩湖の湖水の出口である小河内ダムより下流からだそうです


奥多摩湖を経て日原(にっぱら)川を合わせ

青梅までは、多摩川に沿ってJR東日本の青梅線が走っていて

御嶽駅周辺は、御岳渓流として名水百選のひとつに選定されています



青梅市から広大な段丘(武蔵野台地)を形成し東京都中部を流れ

下流部では神奈川県との境界をなし

羽田空港南側で東京湾に注ぎます

なお、河口付近は六郷川とも呼ばれています



古くは、調布(たつくり)の玉川と言ったようです



多摩川は、東京都の重要な上水道水源でもあり

奥多摩湖、狭山湖、多摩湖、玉川上水などに導水されています


江戸初期(1654)には、中流の羽村(はむら)から

玉川上水が江戸の市街地へ引かれ

多摩川の水は江戸町民の飲料に供されることとなり

また上水沿いの村々にも引かれて

武蔵野新田が形成されるきっかけをもなしました



また、江戸時代には中・下流では舟運が通じ

奥多摩産のスギ・ヒノキの良材が江戸へ送られました

多摩川のアユも古くから風味のよさで知られていたといいます





多摩川の支流としては、浅川、秋川、大栗川などが知られます


浅川は、東京都立高尾陣場自然公園の陣馬山(855m)北東麓(に源を発し

八王子市で南浅川を合流、日野市東部で多摩川に注ぎます

源流から南浅川合流点までの本流を北浅川とも言います



秋川は、奥多摩三山の1つ

三頭山(みとうさん・1591m・300名山)東腹に源を発し

東流し、檜原(ひのはら)村東部で北秋川を合流

八王子・あきる野両市境で多摩川に注ぎます

上流の秋川渓谷は東京近郊の行楽地になっています

多摩川の最大の支流。全長 33.5km



大栗川は、 東京都八王子市鑓水付近を源とし

八王子市松木付近で大田川を合わせます

多摩市に入り乞田川(こったがわ)を合わせて1 kmほど流れ

稲城市との境界付近で多摩川に合流します






日本100名山 奥多摩の名峰 雲取山(東京都で最高の標高地点)にて






山梨100名山 笠取山にて   転写






笠取山 山頂  転写






笠取山の水干 多摩川源流点(中央上の穴)   転写














日本の山の標高を述べておくと

西日本、四国、九州には高い山は存在しないのです

(加賀の白山のみは例外)




日本200名山 笈(おいずる)ヶ岳より見る100名山 白山




例えば、阿蘇山が1592mに対し、奥多摩の雲取山は2017mあるのです

近畿以西の西日本最高峰が、愛媛の石鎚山で1982mです




北海道、東北でさえ2000mを超える山は数えるほどしか存在しません




また3000m級の山は、富士とアルプス(北・南・中央)を除くと

木曽の御嶽山(おんたけさん・3067m)と

八ヶ岳(2899m)しかありません






日本100名山 南アルプス(赤石山脈)南部主峰 赤石岳

左奥は100名山 荒川岳




独立峰で3000mを超える山は、富士山と御嶽山だけなのです

(乗鞍岳も3000mを超え、また独立峰ぽくみえますが

北アルプスの山となっている)






日本100名山 南アルプス 仙丈岳より、100名山 八ヶ岳




八ヶ岳に続く標高をもつ山が白山(2702m)で

白山に続くのが、奥秩父連峰(金峰山や甲武信岳など)と

妙高連山(妙高山や火打山など)と

日光連山(日光白根山や男体山など)で

これらの主峰クラスの山々はおよそ2600から2400mあります






日本200名山 黒姫山より見る100名山 妙高山

左奥に100名山 火打ヶ岳



なので仮に日光の女峰山(200名山)あたりが

西日本や東北、北海道にあったなら確実に100名山になっていたわけです



関東以北(関東を含まず)で最高峰は

尾瀬の燧ケ岳(山頂は南会津郡檜枝岐村に属する・2356m)です




日本100名山 至仏(しぶつ)山より

100名山 燧(ひうち)ヶ岳と尾瀬ヶ原





さて、奥秩父・奥多摩には

金峰山(きんぷさん)、甲武信(こぶし)岳、瑞牆山(みずがきやま)

両神山(りょうかみさん)、雲取山、大菩薩嶺の6峰が100名山とされています

また、乾徳山(けんとくさん)と、奥多摩三山の大岳山(おおだけさん)が

200名山に入ってます




日本100名山 奥秩父 瑞牆(みずがき)山より見る富士




100名山は、北アルプスには15峰、南アルプスには10峰

中央アルプスは、北や南に比べて規模が小さく

木曽駒ヶ岳(中央アルプス最高峰)と空木岳と恵那山(えなさん)の3峰だけです




日本300名山 中央アルプス 越百(こすも)山より見る200名山 南駒ヶ岳




西日本の本土では

加賀の白山は別格で

他に大台ヶ原、大峰山(おおみねさん)

伯耆の大山(だいせん)しかありません


四国には2峰、九州には5峰です



九州に5峰しかないのに

奥秩父・奥多摩という狭い地域に6峰もあるのです


こう考えると、アルプスと八ヶ岳、奥秩父・奥多摩を登れば

半分近くまで

100名山を登ってしまうわけです







200名山 奥多摩三山の一つ 大岳山(おおだけさん)にて






石に話を移しましょう


ふつう探石は、荒川の石のように上流部で行われますが

多摩川の良質の石は、上流域にはなく

中流域の東京都府中市是政(これまさ)の

是政橋あたりの川原が、著名な探石場所です


青梅あたりから中流域とされているので

府中市是政は、中流域といっても、下流域に近いです


但し、多摩川の上流部には、菊花石が産出します





多摩川石で、最も特徴的なのは

大栗川の蒼黒石(そうこくせき・あおぐろいし)です


是政橋あたりの川原が、著名な探石場所であるのは

つまるところ大栗川が、是政橋より少し手前で

本流に合流するからです



大栗川の蒼黒石は

ちょっと他の地域の石にない固有性をもっています


超硬質の肌に

川の石なのに、古谷石などの土中石にみられる

硬質化した泥がまとっているのです


この泥が、青白く

川ズレの部分と対比をなし

独特の趣きを生んでいるのです




大栗川源流部はコンクリート化がすすみ

もう25年ほど前でしょうか・・・

そのときすでに2カ所ほどの沢(沢といっても畑のわきの小川です)

を残し、コンクリート化されていました



ここで拾ったものは、鉄ブラシで、泥落とす必要があります

根気がいる作業です


ゆえに半分は山の石とも言えましょう



また、質は超硬質ですが

粘りがないので、比較的、おっかけやすく

形ができにくい石です


また、ジャグレることもありません



石自体は、大栗川流域の平野一帯

(現在は住宅が建ち並んでいる)で出土するので

めずらしい石ではなく

源流部近くの畑の脇などにも転がっていますが


粘りがなく、形ができにくいので


景のよいものは

「全く望めない」

と言ってもおおげさでないくらいに希少です





この他、大栗川源流域では、そげ石が採取できます


また、多摩川本流の是政橋付近では、大栗の蒼黒の他

真黒石、金梨地石などが拾えます






クリックすると写真が拡大表示されます






横16.5×高さ11×奥4.5  1500g


金梨地石による雲上の富士山


写真では判りにくいですが、細かい金梨がみられます









中央アルプス 仙涯嶺より、南アルプスと富士











横17×高さ(台込)5.5×奥11  829g




















硬くて、キンキンの質です


 長崎県の水石業者 佳石庵の中路さんからいただきました













横12×高さ(台込)7×奥6.5  366g




台座が薄いので、底切りでは? と思う方もおられるでしょうが

もちろん底も自然です







台座は、多摩川石愛好会二代目会長

中村戯石(ぎせき)氏によるものなので

戯石さんがかつて所有していたと思われます









この石は、長野の月水苑の月水先生のブログにのっていたのを

譲っていただいた大栗の蒼黒です



じつは、大栗の蒼黒の固有性に惹かれた私は

何人もの業者さんに問い合わせたことがありました


北は、亡くなられた一選堂(旭川)の相内さんから

南は、長崎の諫早の中路さんに至るまでです

しかし、知っている人がいません



いちばん期待したのは

東京練馬の山水園の笠原さん(2017年に没)です


なんといっても東京の業者さんであるし

盆栽のついでに水石も売っているような石がよくわかっていない業者ではなく

高級水石専門という感じの山水園さんです


笠原さんは、水石界に多大な功績を残した方でもあります




ところが大栗の蒼黒については全く知識のないようで

多摩川の石についても

「多摩川にも水石家がいて、石を楽しんでいるみたいですね」

程度のものとしてしかみていないといった感じでした





唯一、大栗の蒼黒について

話ができたのが、月水苑の月水先生だったのです



まず、先生は

多摩川石は1つの分水嶺である

つまり、多摩川石を理解できるか、できないかによって

その人にまだ先があるのかないのかを、判断できる

と言われ


さらには、多摩川石こそ水石趣味の頂点である

とも言われました




そしてわたしに先生はこうおっしゃられました

「大栗の蒼黒は、二度漬けされた石だと思わないかね!!」と・・・



二度漬け、大阪名物 串カツは、二度漬け禁止なんて決まりがあるようですが

なんのこっちゃ?



月水先生は、大栗の蒼黒は

一度、山から川に入り

川ズレした石が、ふたたび地殻変動によって山の石となって

古谷石のような泥をまとい

そしてまた川に帰ってきた石のではないのか?

と語られたのです



つまり

二度、川に漬かった石ではないのか?

そう解釈しないと、このような(川石と山石が同居したような)

雅趣に富む雰囲気は生まれないだろう と考えたわけです



この先生の発想というか理解には

驚嘆したのを覚えています











横19.5×高さ4.5×奥10.5  959g







この石は2018年の多摩川石遊会の展示会(高幡不動尊で開催)の即売で

いただいてきました


底をみると硬質化した泥がついていたので大栗の蒼黒系だと思われます

色は完全に黒、叩くとカンカン音がします












横13×高さ21.5×奥4  1519g




この石も2018年の多摩川石遊会の展示会(高幡不動尊で開催)の即売で

恩田様からいただいてきました



超硬質の石に、菊紋が入っています

色は蒼黒です











横35×高さ16×奥9  およそ5.5㎏




この石は2018年の多摩川石遊会の展示会(高幡不動尊で開催)の即売で

いただいてきました



山頂部が後ろにそってしまっているのですが

超硬質の大栗の蒼黒で

母岩の青っぽい黒と、青白い硬質化した泥による色彩が非常に美しい石です












横38×高さ4.5×奥12.5  3㎏強







この石も2018年の多摩川石遊会の展示会(高幡不動尊で開催)の即売で

恩田様からいただいてきました



大栗の蒼黒系と思われ、超硬質です

色は蒼黒です



大栗の蒼黒系としては珍しく

そげたり、大きく欠けたりしたところがなく


全体的によく川ズレの効いた石です


質は超硬質です











横8×高さ(台込)11×奥7  330g










この石は、多摩川愛石会の湯本さん


湯本さんは、初代会長の三井遥石氏のときからの

古参の会員です


小品ながら、硬質化した青白い泥と川ズレの肌がみごとです








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